急成長する生成AIスタートアップ起業家が語る「これまで」と「これから」。│カサナレ株式会社CEO 安田喬一さん

「いつもの仕事をもっと簡単に」をミッションに掲げ、企業ごとの業務課題に最適化したカスタマイズ型の生成AI「Kasanare」を運営するカサナレ株式会社。三菱UFJ信託銀行をはじめとした、国内最大手企業の導入実績を多数持つ急成長スタートアップです。
代表取締役CEOの安田さんはカサナレを創業する直前の2022年8月からStartPassを導入しており、シードラウンド・プレシリーズAラウンドの資金調達を実施。そして、副業からCxO候補を巻き込むことができる採用サービス「CxO-Pass」を使った副業人材の採用まで多角的にStartPassを活用いただいています。
今回のnoteでは、カサナレの事業戦略、資金調達の苦労、そして生成AI時代の「働き方」について伺いました。
カサナレ流の事業戦略 - Deep Dive -
―― まず、カサナレの事業について教えてください。
はい。もともとは「カスタマーサクセスナレッジ」を略して「カサナレ」というCSを加速するサービスだったんです。
提供サービスを継続的に使っていただき、本質的な成功を支援するという、同じサービスを長く使ってもらって業務が回って感謝してもらえる、そういうCSの概念がすごく良いなと思っていたんです。
ただし実態は業務効率化のために導入されているはずのサービスが、逆に誰かを忙しくさせている一面もありますよね。
2022年に起業した当時は生成AIが一般化する前だったんですが、共同創業者の西田が生成AIに早くから着目していたこともあり、生成AIとCS業務を掛け合わせた事業が今のカサナレの始まりでした。
こうした背景があるので、面倒で煩雑な業務のDX、奥深くまで入り込んだ課題解決に焦点を当てています。他社が絶対やらないような解像度の高さでソリューションを提供するというのがカサナレの強みになっています。

―― 三菱UFJグループでの導入など、すでにエンタープライズにも多数の導入実績があるのはそうした解像度の高さゆえですか。
そうですね。ただし一般的なSaaSの事業戦略と大きく異なる点があって、シンプルな横展開を目指すのではなく、1つの企業になるべく深く、業務単位で入り込むことを意識しています。エンタープライズであれば一社の中で膨大な業務範囲があるので、THE MODEL的な顧客獲得をしなくても生成AIの活用ポイントは無数にあります。
カサナレではこの戦略を”Deep Dive”と呼んでいますが、従来必要とされていたマーケティングやセールスのリソースなどが不要なので、限られたリソースで勝負をするスタートアップにとって、合理的な打ち手となります。
会社のスケール方針として、クライアント課題と向き合うための「内部的な仕組みそのもの」を初期に構築出来たことが、ソリューションの解像度を高める上で非常に重要な要素となっています。
―― エンタープライズ内で色んなSaaSや内製ツールを使っていて結局業務が煩雑になっているというのはあるあるかもしれません。
ですね。とはいえ、社内ツールを私たちが全てリプレイスしなくてもいいんです。どの会社でもSalesforceやfreeeなどのSaaSを併用している…というのはよくある話で、そこを無理に引き剥がす必要はなくてスムーズに連携できる生成AIがあればいいだけなんです。
それと同じことが会社内の深く込み入った業務においても起きるので、他社には真似できないような競合優位性を作りましょうということをよくクライアントに伝えています。
SaaSを使いこなすためには人間が正しい使い方を学ばなくてはならない、という今までの常識は前時代的な価値観になると思っていて、LLM時代においての新常識は、「学ばないDX」です。
導入いただければ競合他社にはできないような優位性を築くことができる。ただ、その競争優位性のもとになっているのは各社の膨大なデータ。私たちが向き合うのは、これまでの経営ノウハウをいかにして生成AIに使っていくか。そこにコミットしたいと思っています。
起業してから今日までのカサナレ年表
―― 創業初期からStartPassを活用いただいているカサナレさんと弊社の年表を作成しました。

凄いですね(笑)。
確か、2022年の8月に株式会社WDCで当時CHROをされていた原(洋介)さんに「StartPass良いよ」と教えてもらいました。この時は登記の直前で、初めての資金調達に向けて動き出していたタイミングでした。
―― シード期の資金調達を振り返ってみていかがですか。
最初は何をやれば良いのか全く分かりませんでしたが、StartPassさんのイベント、StartupNightに参加をすると、業界の有識者の方と気軽に繋がれる環境があり、これを活用しない手はないと思いました。
私がまず始めたことはFacebookです。SNSはしない派でしたがアカウントを作りました。
次に、StartupNightで繋がった同じ起業家にサービス概要のプレゼンをして、厳しめのフィードバックをもらいました。一度イベントに参加するだけで、良いフィードバックをしてくれる方が10人ほど獲得出来る。打ちのめされるのは早いほうが良いと思っていたので、とてもコスパが良く、リリース前のテストマーケには最適でした。
そして多くの方と壁打ちを重ねる中で、皆さんのアドバイスには共通点があり、それが普遍的なものにも感じたんです。今思えばSaaSツールの定石のようなアドバイスをお伝えいただいたのだとは思うのですが、この過程を経てむしろ私の中でブレない芯ができてきて、変えずに突き進む要素も大切に持ち続けようと思いました。
こうした気づきは、共同創業者と話すだけでも、顧客とひたすら向き合うだけでも得られませんでした。第三者の視点を取り入れながら事業のコアを形成できたことは大きかったです。そうした機会を提供してもらえたこと自体がとてもありがたかったです
日本一の行動力で切り開いたシードラウンド
―― 初めてプロダクトが世に出た時のお話も是非お聞かせください。2023年の3月15日のプレスリリース、これがChatGPTのGPT-4がリリースされた日と同日ですよね。
そうなんです。実は、たまたまこの日夜中まで起きていて、夜中の4時にGPT-4のリリースを見たんです。
その時に、今 日本でこれを見て手を動かせるのは自分だけかもしれない、こんなチャンスは二度とないからスピード勝負で翌朝に何かプレスリリースを打とうと直感的に思ったんです。
実はこのプレスリリースを出したのが同日の9時でした。内容は「GPT-4に対応したチャットボットをリリースします・事前受付しますよ」というものでしたが、大量の問い合わせが来ました。PV数も1万件以上あったと思います。
さらに、ちょうど同じ時期に「Startup Japan EXPO」というスタートアップカンファレンスが翌月に開催されると知りました。共同創業者とも意見が割れたんですが、僕は「絶対に出たほうが良い」と考えました。この時にまだプロダクトもない状態でしたが(笑)
実際に出展してみると、エンタープライズの担当者もChatGPTやチャットボットに興味はあるけれどよくわからなくて導入に踏み切れないという方が非常に多かったです。そうした方々にアプローチできたというのは非常に良かったです。
しかも、この会場で実際に展示していたチャットボットは、会場案内できるチャットボットとして出展していて、主催に確認してEXPOに出展する企業の情報を読み込ませていたんです。
当然、会場にはこのスピード感で対応していたチャットボットはありませんでした。そのため、非常に多くの方に来場いただいて、そこからのご縁が数珠つなぎで広がり、グローバル・ブレインの方と接点を持つことが出来ました。本当に少しでもタイミングがずれていたら今は無いなって思います。

―― 行動力の賜物ですね。
はい。当時の僕はいろんな人にとにかく会いまくっていて、この一年で日本で一番商談する起業家になってやると思っていました。モデルに頼ったアプローチであったりとか、テクノロジーに頼ったアプローチというよりも、行動量で課題をとにかく拾い集めて私たちが本当に注力すべきことが何なのかを考え続けていました。
その時に出会った当時のグローバルブレインの担当者が、こうした行動力や情熱が一番大事なことだと評価してくれて、グローバルブレインの生成AIスタートアップの投資第1号になったんです。

100人のキャピタリストに認められるよりも、1人に熱烈に共感してもらうほうがビジネスとして良いものになるだろうという確信はありましたが、たまたまその方がグローバルブレインという大手VCの方だったのは、単純に運が良かったと思っています。
投資決定後も人材採用、特許、広報、事業戦略など多方面のサポートをいただき、結果的に今回のラウンドだけでなく、次のラウンドにつながる大きな原動力となったと思っています。
「理想的な資金調達が出来た」プレシリーズAを振り返って
―― なるほど。確かにシードラウンドの資金調達は事業アイデアやトラクション以上に起業家本人も大きく評価される印象はあります。その後、プレシリーズAの資金調達も実施されますが、苦労された点はありましたか。

プレA(プレシリーズA)までの道のりは、ランウェイの管理が本当に大変だったと思います。シード調達後にお問い合わせも商談も増え、現場はプロジェクトでめちゃくちゃ忙しいのに、売上の計上に直結しない状況が続きました。
盲点だったのが、エンタープライズを顧客対象とすると、生成AIという未知のクラウドサービスに対しての意思決定の期間がとても長いという点でした。数か月単位で法務とのやり取りがあったり、それが終わってからまた数ヶ月検証してからお金払います…と言った形でお金が全然入らないんですよね。6月末に調達した資金が9月にはもうなくなるような状態で。事業に並行して大急ぎで資金調達に追われていました。
―― 調達後の1年間はスタートパスのイベントにもあまり参加されていなかったと思いますが、そんな状況だったんですね。
当時は生成AI企業もここまでは多くなかったので、積極的に展示会に出たりセミナーにも登壇したりとメディア露出を増やしていましたが、コストだけがかさんで売上がなかなか立たない状況が続いていました。

当時はデットファイナンスを駆使し、さらにファクタリングもフルで駆使しながらあの手この手でなんとか生き延びていたという感じでした。お客さまに着金のタイミングを早めてもらえないか直接交渉したりもしまして、この当時は銀行の残高が常に100万円を切っていたと思います。
ただし、この期間で飛躍的に顧客数が増え成功事例の創出が相次いだことで、会社としての評価が高まったのも事実です。
―― ここからプレシリーズAの資金調達を実施できた要因も教えて下さい。
三菱UFJ信託様の業務改善事例が、業界で大きく取り上げられました。
この業務は、数年前からAI化の実現を熱望していたという超高難易度の案件で、他のAI企業など複数社と検証をしていたそうですが、カサナレにしか出せないクオリティでご要望に応えることが出来たことで、本導入が決まりました。
このように大手企業にDeep Diveする成功事例が生まれつつあった中で、その価値を証明するために、プレシリーズAでは導入クライアントのCVCや事業会社からの資金調達に狙いを定めるようになりました。
CVCとして積極的に投資されている企業から表向きにはCVCとして活動していないが出資機能を持っている企業など様々でしたが、弊社クライアントの中から特に優先順位の高い数社に絞ってお声がけをしていました。
―― まっすぐ愚直に向き合った案件から繋がっているのは理想的な資金調達ですね。
はい。まずはグローバル・ブレイン様に引き続きリードを取っていただくことが最優先事項でしたが、今回ラウンドからは、フォロー投資家を迎える予定でした。そのフォロー投資家としての最優先CVCは、まさに今回出資をいただいた三菱UFJイノベーション・パートナーズ様です。
しかし、弊社に出資検討いただいているタイミングは、Sakana.aiやnewmoなど話題のスタートアップに投資を実行されていたタイミングでした。
さすがにそのレベルには達していない思っていたので、投資委員会に通ったご連絡をいただいた時は飛び跳ねるくらい嬉しかったですし、実績を評価いただいたことには感謝しかないです。
「働き方を大事に。」カサナレがCxO-Passを使ってみて
―― 資金調達の使途はどんなところにありますか。
カサナレとしては「働き方」をとても大事にしていて、競争力の源になると思っています。しかし、ここ1,2年で人材のトレンドが大きく変わって、「良い人」に巡り合うまでの工数がかなり高くなってしまったと感じています。
例えば、生成AIが普及するに伴って「AIエンジニア」が急増していると思います。専門性を以って独立したフリーランスと言うよりは、時代の潮流に乗ったフリーランスの方が増えているような気がしています。そうした方だと単価を高く支払っても実際に良い働きをしてくれるかは分からないの不安があります。
紹介の紹介の紹介…という人材を提案されたり、実際にその本人に幾ら払われているのかも分からなかったり、人材紹介の活用についても悩んでいて、新しいやり方は模索しないといけないと思っていました。ちょうどいいタイミングでCxO-PassがリリースされたのでStartPassの濱田さんにご紹介いただき、採用を加速させました。
―― 実際に利用いただいているCxO-Passはいかがですか。
候補者に、業務委託の手数料を明確に伝えている点が素晴らしいです。スタートアップの目線を持つStartPassさんが挟まることで、カサナレとしてどの程度のバリューを出してほしいか採用候補者との期待値がズレにくい点が良いですね。フリーランスという仕事のプロフェッショナルに対してお金の話は避けられないので、支払う金額に対してのバリューをコミットしてもらうべきはずなのに、その話ができないのは双方にモヤモヤが残るので。
もう一つ、偶然かもしれませんが、CxO-Passでお話した採用候補の方々は皆「自分の本業中の時間とは明確に区別する」人たちでした。
当たり前かもしれませんが、実はこれって凄いことなんです。最近はリモートワークが可能な職場も増えているので、本業中に昼間の2時間だけを隠れて捻出し、片手間でスタートアップの手伝いをする「お小遣い稼ぎ」も可能な時代です。
もちろん楽してお金を稼ぎたい気持ちも分かりますが、生成AI業界は技術の進歩が早く、そのマインドでは務まらないと私は思っています。
CxO-Passでお話した方は「本業が忙しいので、しっかりと調整させてください」と正直に言ってくれる時点で、候補者のレベルの高さを感じています。
―― 早速良い出会いがあったようで何よりです。
ありがとうございます。言ってしまえば、CxO-Passは楽に稼ぎたい人からすると美味しくない副業サービスだと思います。
単なる副業目的ではなく、本気で成長したいと考えている方と出会えています。愚直に良い質を担保できているのが、まさにStartPassっぽさを感じるので気に入っています。
―― 今のフィードバックも実直な安田さんらしさを感じて非常に嬉しいです。最後に、今後のカサナレの展望を教えてください。
これまでの働き方は、「オフィス出社」か「リモート」の二択でした。しかし、生成AIの進化により、新しい働き方が可能になりました。
カサナレが提案するのは、「AIアシスト型ハイブリッドワーク」です。
これは、AIが働き方の中心にあることを前提に、場所や時間にとらわれず、最大限の生産性と創造性を発揮できる環境を実現する働き方です。生成AIがリアルタイムでタスクをサポートし、「どこでも働ける」ではなく「どこでも最高の成果を出せる」働き方を目指しています。
私たちはソフトウェア会社でもありますが、単なるツール提供の枠を超え、働き方そのものを変えていく挑戦を続けていきます。
―― 本日はお時間いただきありがとうございました。
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