Masaru’s Eye | AI隆盛の裏で変化した、オープンソースの生き残り方——CTOが新たに確認すべきこと

    カリフォルニア州サンタクララのNvidia本社。同社は2026年9月3日、オープンモデルの共有基盤である Hugging Face を129億米ドルで取得することに合意したと発表した。
    Photo: Coolcaesar /
    Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0

    Bun という JavaScript の実行環境を作った Jarred Sumner氏が、自分の会社が買収されたときに、こう言っている。

    「Claude Code は Bun の実行ファイルとして、何百万人ものユーザーに配布されている。Bun が壊れれば、Claude Code が壊れる」。

    2025年12月3日、Anthropic は Bun を買収した。Anthropicにとって最初の買収である。発表は Claude Code が公開から6か月で年換算10億米ドルに達したという知らせと同じ日に出された。Anthropic はBun をオープンソースかつMITライセンスのまま維持すると明言している。

    Sumner氏はもう一つ、印象的なことを言っていた。Bun のリポジトリでマージされたプルリクエストが最も多い GitHub ユーザー名は、いまや Claude Code のボットであると。買収される前から、すでにそうなっていた。

    OpenAI の買収17件のうち、8件がオープンソース

    サンフランシスコ・ミッションベイの1515 Third Street。OpenAI のオフィスが入る建物である。同社は2023年からの3年間で17社を買収した。
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    Crunchbase の集計によれば、OpenAI は2023年から2026年3月までの3年間で17社を買収している。2023年が1社、2024年が2社、2025年が8社、2026年は3月までで6社。2025年4月まで、同社は買収というものをほとんどしていなかった。

    2026年の6社を並べると、性格がはっきりする。1月に生成AIコンサルティングの Convogo、医療記録の Torch、LaTeX 共同編集の Crixet。2月にオープンソースのAIエージェント OpenClaw を創業者ごと。3月にオープンソースのPython開発ツールを作る Astral と、評価ツールの Promptfoo。

    Astral が何を作っているかというと、uv、Ruff、ty である。Python のパッケージマネージャ、リンター兼フォーマッタ、型チェッカー。いずれも Rust で書かれ、世界中の Python 開発者が日常的に使っている。CNBC は、Astral のチームが OpenAI の Codex 開発に加わると報じている。

    そして集計を横断すると、こうなる。OpenAI の17件の買収のうち、8件がオープンソースの要素を持つ。ただしこれは3月時点の数字で、その後の更新版は見つけられなかった。買収は続いているので、分母はいまもっと大きい。

    Anthropic は件数が少ない。2025年に Humanloop(LLM評価プラットフォーム)と Bun、2026年に Vercept。Together AI はクラウド開発環境の CodeSandbox を買った。

    そして Nvidia である。2026年9月3日、オープンモデルの GitHub と呼ばれる Hugging Face を129億3,030万米ドルで取得することに合意したと発表した。年換算売上は約1億5,000万米ドルなので、86倍になる。Nvidia にとっては昨年12月の Groq の資産取得(200億米ドル)に次ぐ規模で、完了には規制当局の審査が必要だ。

    買われているのは、コードではなく決定権

    移るのはライセンスではなく、次に何を作るかを決める権利のほうである。
    Photo: Blogtrepreneur /
    Wikimedia Commons, CC BY 2.0

    10か月前まで、この問題の答えは別のところにあった。ライセンスである。

    2023年8月、HashiCorp が Terraform と Vault のライセンスを MPL 2.0 から Business Source License に変更した。競合サービスを提供する事業者は、以後のリリースもバグ修正もセキュリティパッチも取り込めなくなる、という内容である。2024年3月には Redis が BSD から RSALv2 と SSPLv1 の二重ライセンスへ移った。競合サービスを提供する組織は、新しいバージョンのソースコードを無償では使えない。遡れば Elastic が2021年、MongoDB が2018年に同じことをしている。

    理屈はどれも同じだった。クラウド事業者が自社のソフトをマネージドサービスとして売り、こちらには何も返ってこない。だからライセンスで締める。

    そして毎回、コミュニティは同じ返し方をした。フォークである。Terraform からは数週間で OpenTofu が、Redis からは30日以内に Valkey が生まれ、どちらも Linux Foundation の下に入って大手クラウドが後ろについた。Valkey には初年度で50社近くが参加している。Elastic は2024年に AGPLv3 を追加して部分的に方針を戻し、Redis も2025年に AGPLv3 を採用して OSI 準拠に戻った。

    締めれば、フォークされる。あの数年、「金にならない」への答えは、ライセンスをどこまで締められるかという交渉だった。所有者は動いていない。動いたのは使用条件のほうである。

    いま起きているのは、その逆だ。

    ここで大事なのは、どの案件でもライセンスは変わっていないということだ。Bun はMITのまま。Astral のツールも、OpenAI と Astral の両方が開発と維持を続けると表明している。フォークしようと思えば誰でもできる。変わるのは、ロードマップを誰が決めるかだ。

    AI企業の垂直統合は、これまでほぼ計算資源が対象だった。Anthropic が Bun で買ったのは、配布の仕組みそのものである。10億米ドルを生む製品が、自社の管理下にないオープンソースに依存している状態は、戦略上の脆弱性になる。

    買われる側にも理由がある。ただし、それは金ではなかった。

    Sumner氏は自身のブログで、今日の時点で Bun の収益はゼロだと書いている。ただしこれは苦境の告白ではない。当初の答えのほうは決まっていた。Bun のランタイムとバンドラーに垂直統合したクラウドホスティング製品を作る。HashiCorp や Redis がライセンスで守ろうとしていたのと、同じ種類のビジネスである。

    彼はその道を降りた。ブログで決め手として書かれているのは、Claude Code チームの Boris氏との4時間の散歩だ。Bun のこと、AIコーディングの行き先、Bun のチームが Anthropic に加わったら何が起きるか。それを数週間のうちに3回ほど繰り返し、そのうえで競合他社とも同じことをした。そして一行、Anthropic が勝つと思う、と。

    買い手を比較したうえで、勝ちそうな側を選んでいる。救済されたのでも、安定を買ったのでもない。

    Hugging Face の件は、この構図がいちばんはっきり出ている。

    Nvidia の Jensen Huang氏(黄仁勲)はブログで、Hugging Face はAIエコシステム全体に開かれたプラットフォームであり続けると書いた。開発者は好きなモデル、フレームワーク、クラウド、計算基盤を選べる。Hugging Face の上で何かを作るのにも、そこから配布するのにも、Nvidia の計算資源は要らない、と。約束は明文化されている。

    一方で、その1年前に何があったかも記録に残っている。Financial Times が今年1月に報じたところによれば、Nvidia は70億米ドルの評価額で5億米ドルを出資すると提案し、Hugging Face はそれを断っていた。創業から10年で調達してきた総額を上回る金額である。Hugging Face は取引そのものへの言及は避けつつ、意思決定を左右しうる単独の支配的な投資家は望まないと説明した。それから1年、同社はおよそ2倍の評価で丸ごと売られている。少数株主としての影響力すら拒んだ相手に、全部を渡したことになる。

    ただしCEO のClément Delangue氏は、発表後の記者説明でこの提案を認めていない。彼が認めているのは、この夏に自分から Huang氏に連絡したことのほうで、理由はオープンソースAIが転換点にあり、もっと資源と規模が要ると考えたからだという。

    金にならないまま何百万人に使われているという、オープンソースの積年の問題に、AIラボが答えを出したという話である。

    オープンは「安く作る側」の戦略だった

    レイキャビク港のコンテナターミナル。規格を開くことは、安く運ぶ側に回るということでもある。
    Photo: Quintin Soloviev /
    Wikimedia Commons, CC BY 4.0

    正反対に見える議論を書いておきたい。

    投資家の Bill Gurley氏が7月20日にWashington Post へ寄稿している。彼は現在、P3 Instituteの代表で、かつてベンチマークにいた人物である。Anthropic と OpenAI は1兆米ドル近い評価額で上場を準備しているが、その評価額は並外れた利益率が続くという前提に乗っている。そしてその利益率にとって最大の脅威は、資金の潤沢な別のラボではなく、無料で配られている強力なモデルの波だ。

    彼の整理でいちばん切れ味があるのは、ソフトウェアにおける「オープン」とは、高い利益率を取る生産者ではなく、低コストの生産者になることだという言い方である。そして寄稿の一節。オープンモデルの波は、AI企業への攻撃ではない。彼ら自身が手にすると宣言している巨富に、市場が反応しただけである。

    だとすると、いま起きていることは奇妙に見える。低コスト生産者としてのオープンが、高い利益率を必要としているラボに、次々と買われている。

    Nvidia の現在の主要顧客はハイパースケーラーだが、Google は TPU を持ち、OpenAI も自社チップの開発を進めている。数社に切られたときの落ち込みが大きすぎる。ところがオープンウェイトのモデルが広がれば、機密データを外に出したくない一般企業が、自社のサーバーでAIを動かすようになる。GPU を売る相手が、ハイパースケーラー数社から、無数の企業にまで広がる可能性がある。

    Gurley氏の定義と、これは矛盾しない。高い利益率を必要とするラボにとってオープンは脅威だが、その下の層で計算資源を売る会社にとって、オープンは販路そのものである。片方はオープンソースの開発ツールを買い、もう片方はオープンモデルの置き場を買った。動機は正反対で、行動は同じだった。

    条件が付き始めてもいる。中国の Z.ai(智譜AI)は8月28日、GLM-5.3 のウェイトを Hugging Face で公開したが、前世代が MIT ライセンスだったのに対し今回は独自ライセンスである。モデルを提供する事業者のうち直近12か月の売上が100億米ドルを超えるものは、商用利用の前に Z.ai の審査を通さなければならない。審査の範囲は Z.ai が決める。個人や中小の利用者に影響はない。それでも、オープンウェイトであることと、誰でも自由に使えることは、もう同義ではない。

    日本の開発現場は、何を見ればいいのか

    開発の現場。uv も Ruff も Bun も Hugging Face も、この1年のあいだに持ち主が変わった。
    Photo: Christina Morillo /
    StockSnap, CC0

    uv を使っているだろうか。Ruff は? Bun は? Hugging Face からモデルを落としてきているだろうか。そのすべてが、この1年のあいだに持ち主を変えている。Bun が2025年12月、Astral が2026年3月、Hugging Face が2026年9月。10か月である。

    これまで「オープンソースかどうか」は技術選定の判断材料だった。特定ベンダーに縛られない、価格を一方的に決められない、最悪フォークできる。その判断は、いまもライセンス上は正しい。だが実質的な意味は、かなり薄まっている。

    薄まった部分は3つある。ロードマップの優先順位。Bun の開発は今後、Claude Code に必要な機能から順に進む可能性が高い。それは他の全員にとって最適な順序とは限らない。中立性。Python のパッケージ管理という、どの処理系にとっても中立であるべき層が、特定のAI企業の内側に入った。そして存続の条件。いま無料で使えているツールの持続可能性が、AI企業の戦略に依存する状態が生まれている。

    だとすると、技術選定の基準にひとつ項目が増える。ライセンスが何かではなく、誰が所有していて、その所有者の本業は何か。

    所有者の本業とツールの用途が一致しているうちは、問題が起きにくい。Anthropic にとって Bun が速く安定していることは、Claude Code のためにも他の全員のためにもなる。問題は、一致しなくなったときだ。そのときフォークするという選択肢は、理屈の上では残る。だが uv や Bun の規模のプロジェクトを維持できるチームが、どれだけあるだろうか。

    もうひとつ、日本のスタートアップにとっての含意がある。自社が作っているオープンソースのツールが広く使われたとき、その先に「買われる」というイグジットが実際に存在するようになった。Bun は収益ゼロで買われている。金にならないまま広く使われている状態は、これまで行き止まりだった。いまは違う。

    Sumner氏のブログには、もう一つ、見落とされがちな一文がある。買収の時点で、Bun には4年分を超える資金が残っていた。「Anthropic に加わる必要はなかった」と彼は書いている。追い込まれて売ったのではない。彼が答えを出したかったのは、ユーザーからずっと訊かれ続けてきた問いのほうだった。「自社の技術スタックを Bun に賭けて、Bun は5年後、10年後もまだあるのか」。これに「2,600万米ドル調達しました」と答えるのは良い答えではない。投資家はいずれ回収を必要とするからだ。

    ここに、いま起きていることがいちばん短く出ている。オープンソースの持続可能性を担保する仕組みとして、いま最も説得力があるのが「大手に所有されていること」になった。「誰のものでもない」という強さが、「誰かのものである」という安心に置き換わりつつある。

    だとすれば、やることははっきりしている。依存しているオープンソースを書き出して、それぞれの持ち主と、その持ち主が儲けている本業を隣に並べてみるといい。一致しているものは当面は安全だ。一致していないものが見つかったなら、それは技術的負債ではなく、経営上のリスクとして扱ったほうがいいかもしれない。


    執筆者|エグゼクティブ・エディター池田 将(いけだ・まさる)

     1973年大阪生まれ。12歳でIT関連誌への寄稿を始め、20歳の頃からアジア各国やシリコンバレーで新興技術の取材を行う。ベンチャーキャピタルでの技術デューデリジェンス、SI-erやコンサルティングファームの共同創業、ISPインフラや日本初のモバイルウォレット開発などに携わる。

    2010年代には、アジアを代表するスタートアップメディアを共同創業し、約15年間運営。現在は、経済産業省のJ-Startup推薦委員、Tokyo Startup GatewayやMASPのメンターを務めるほか、韓国・延世大学で定期的に講義を行う。

    2025年からは、「SOCIA」代表、「Growthstock Pulse」を運営するCohhのCCOとして新事業に取り組む。YouTubeやオーディオブック出演、メディア執筆、国内外のカンファレンス登壇など、多方面で活動中。

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