Masaru’s Eye | AIアプリトップ100に日本からはゼロ、でも空席は「遊び」にある──a16zが東京に来た週に読むべきデータ

2026年10月7日に行われたAndreessen Horowitz(a16z)の開所式の様子。
(a16z ジェネラルパートナー RaghuRaghuram氏の X から)
2026年10月7日、Andreessen Horowitz(a16z)は東京に拠点を開いた。a16z は5月に高市首相らと会談した際に、東京オフィスの設置を発表していた。同社にとっては、ソウルに続く2ヶ所目のアメリカ国外拠点である。a16zが東京拠点の開設にあわせて掲げた重点領域は、防衛テクノロジー、ロボティクス、AI、エネルギーだ。
ちょうどその2日前、a16zは消費者向けAIアプリの上位100をおよそ半年ぶりに更新した。2023年9月から続くシリーズの第7版で、ウェブサイトの訪問数の上位50、スマホアプリの利用者数の上位50に加えて、今回初めて、アメリカの消費者のカード決済に基づく支出の上位50が加わった。3つのランキングに名前が載ったのは、のべ150枠である。
その150枠を一つずつ見ていくと、日本発のプロダクトは一つも見当たらない。中国からは ByteDance(字節跳動)、Alibaba(阿里巴巴)、Kuaishou(快手)、Meidu(美図)、Baidu(百度)の製品が並び、韓国からも NAVER のカメラアプリ SNOW と翻訳アプリ Papago がランクインした。果たして、日本の起業家は消費者向けAIの競争から外れてしまったのか。
人口だけでは説明できない差
まず、ランキングの作り方を押さえておこう。この上位100は、ウェブサイトは調査会社 Similarweb が集計した月間の訪問数、スマホアプリは調査会社 Sensor Tower が集計した月間の利用者数で、それぞれ上位50を選んでいる。対象は、生成AIが製品体験の中心にあるもので、AIを前提に生まれた、いわゆるAIネイティブのスタートアップだけでなく、AIを組み込んだ既存の製品も含む。
スマホアプリのリストには中国のアプリストアでしか配信されていないアプリも入っているので、利用者数のランキングはアメリカに限らず世界の利用を映していると読める。一方、今回加わった支出のランキングは、調査会社 YipitData がアメリカで集めたカード決済のデータに基づくもので、レポート自身が、アメリカ限定の調査協力者のデータから推計したものであり、企業の売上全体として読むべきではないと断っている。
顔ぶれは固まりつつある。今回初めて名前が載ったのは11製品だけで、7回の中で最も少ない。首位は第1版から変わらず ChatGPT で、8月のウェブサイトの訪問数は Gemini の約2倍、Claude の約6倍、スマホアプリの利用者数では Gemini の2.5倍、Claude の14倍の差がある。目立つ変化は Claude の台頭で、2023年9月の第1版ではウェブのランキングに入っていなかったが、いまは3位に定着した。
もう一つの変化は、既存の大手の存在感である。前回から、AIを中核に組み込んだ既存の製品も対象に加えた結果、Canva と Notion がウェブの上位10に、Figma が上位15に入った。Google はウェブだけで Gemini、NotebookLM、AI Studio、Labs、Antigravity の5つを送り込んでいる。韓国の SNOW と Papago も、NAVER という既存のプラットフォームの製品だ。
こうした状況を踏まえると、日本からのランクインがゼロであることには、2つの読み方がある。日本発のAIネイティブスタートアップが利用者を集めきれていないということ、そして、日本の既存のプラットフォームも、AIを中核に据えた製品で世界の上位に届いていないということだ。人口の大きい国が有利な集計ではあるが、人口が日本の半分以下の韓国から2製品が入っている以上、人口だけでは説明しきれない。
AIにお金を払っているのは「消費者」ではなく「仕事をする個人」
今回のレポートで一番新しいのは、お金の流れが見えたことだ。結論を一言で言えば、消費者向けAIの利用は「広いが浅い」。YipitData がアメリカで集めた調査協力者のデータでは、8月時点で ChatGPT、Gemini、Claude のいずれかに個人で課金していたのは対象者の4.5%だった。1年前の2.1%からは倍増したが、まだ20人に1人もいない。しかも、一つのAI製品に払っている人のうち、別のAI製品にも払っているのは13%しかいない。
その狭い課金者の中で、支出はさらに偏っている。課金者の上位1%の支出は、観測された消費者AI支出全体の19.5%を占める。これは下位50%の合計(16.6%)より多い。上位10%まで広げると、支出全体のおよそ半分になる。上位1%の課金者は、個人のカードだけで月平均903米ドルをAIに払っており、その額は過去18か月で80%増えた。課金者を金額順に並べてちょうど真ん中にあたる人(中央値)は、月25米ドルで、ほとんど増えていない。
では、その上位1%は何に払っているのか。レポートによれば、彼らが平均より多く買っているのは、業務の自動化やプロダクトづくりのツール(n8n、fal、Manus、Nous Research)と、創作のツール(Higgsfield、Figma、HeyGen)である。プラン構成にも同じ傾向が出ていて、Claude の課金者の7.3%が月100米ドルからの最上位プランを契約しているのに対し、Google と ChatGPT の同等のプランはそれぞれ1.3%と1.1%にとどまる。
レポートは、消費者向けAIが最初に見つけた本当の市場を、作る、創る、仕事を片付けるためのツールに、しばしば多額を払う人たちだと書いている。名前は「消費者向け」でも、お金を払っているのは、仕事をする個人なのだ。だから、利用者数のランキングと支出のランキングは大きくずれる。支出の上位50社のうち29社は、ウェブにもスマホアプリにも名前がない。パソコン用のアプリや、既存のメッセージアプリの中で動くAIが多いからだという。
この構造は、日本の起業家にとって2つの意味を持つ。一つは、利用者数で世界の上位に入らなくても、少数の熱心な課金者をつかめば事業は成り立つということ。支出の上位50に入った写真編集の Evoto のように、写真家のような特定の職業に深く入り込んだ製品もある。もう一つは、上位1%に依存する事業は、その1%が離れたときに崩れやすいということで、効率的なマーケティングが可能な反面、モノカルチャー経済のようなリスクもはらんでいる。
ゲーム、動画配信、SNS──AIでまだ誰も取っていない9つの分野
レポートには、日本の起業家にとって一番読む価値のある図が1枚入っている。「消費者向けAIに伸びしろがある場所」と題した表で、パソコンでインターネットが広がった時代から、SNSとスマホの時代までに勝った会社をカテゴリごとに並べ、今回の上位100にそれに当たるAI製品があるかどうかを示したものだ。
埋まっているカテゴリは4つしかない。検索と回答(ChatGPT、Gemini、Perplexity、DeepSeek)、制作(Notion、Gamma、Figma、Lovable、Cursor)、写真と動画(CapCut、Picsart、Photoroom、Higgsfield)、教育(Gauth、Photomath)である。健康(OpenEvidence)と地域サービス(美団)は、用途か地域が限られるという意味で「部分的」とされた。
残りの9カテゴリは「なし」だった。動画配信やメディア(かつての YouTube、Netflix、Spotify)、ネット通販(Amazon、eBay)、SNSとメッセージ(Facebook、X)、旅行(Expedia、Airbnb)、個人の金融(PayPal、Robinhood)、求人(LinkedIn)、不動産(Zillow)、ゲーム(Zynga、Roblox、Steam)、マッチング(Tinder)である。またSNSのカテゴリからは、AIコンパニオン(会話の相手になるAIキャラクター)が除かれている。
レポートは、それ以前の時代の大企業の多くが取引とネットワークの上に築かれたのに対し、いまの上位のAI製品にはほとんど複数人で使う魅力がない、と書いている。言い換えれば、AIはここまで、一人で仕事を速く片付けるツールとして成功した。人と人をつなぐ場、モノやサービスを売り買いする場、そして時間を楽しく使う場は、まだ誰も取っていないのだ。
お金の取り方も、まだ一本調子だ。ウェブ上位のAIを前提に生まれた製品44のうち、月額の有料プランを持つのが84%、使った分だけ払う料金や追加の利用枠の販売が64%で、広告は14%、取引手数料は2%しかない。広告と手数料で大衆から稼いだ前の時代とは逆の構図である。
しかし、変化の兆しはある。OpenAI によれば、ChatGPT の広告収入は8月時点で、年間に直すと10億米ドルのペースに達した。利用者の代わりに予約や買い物までこなすAI(個人向けエージェント)の Instinct は、年間に直すと10億米ドルを超える取引がすでに自社を経由しており、その半分は旅行だと創業者が語っている。
ここで、空いているカテゴリをもう一度見てほしい。ゲーム、動画配信、SNS。図の対象からは外されているが、AIキャラクターとの関係もある。日本の会社が世界で長く強みを持ってきた領域が、そのまま並んでいるのではないか。ただし、空いていることと、日本がその市場を取れることは別の話である。そこを考えるうえで参考になるのが、日本がよく知っている、ある課金の形だ。
AIの課金はソシャゲに似てきた
上位1%が下位50%より多く払う。この数字を見て、既視感を覚えた日本の読者も多いのではないか。基本無料のスマホゲームの課金構造、要するにフリーミアムモデルだ。
2014年、アプリのマーケティング支援を手がける Swrve は、同社のネットワーク上のフリーミアムゲームの課金データを分析したレポートを出した。2014年1月の1か月間で課金したのはプレイヤーの1.5%にすぎず、その課金者の上位10%、つまりプレイヤー全体の0.15%が、ゲーム内課金の売上の半分を生んでいた。業界では、こうした大口の課金者を「クジラ」と呼ぶ。
a16z の今回のデータと並べてみる。AIに個人で課金しているのは対象者の4.5%で、課金者の上位10%が支出のおよそ半分を占める。課金する人がごく一部で、その中のさらに上位10%が売上の半分を握る。12年の時間差があり、データの取り方も違うので厳密な比較はできないが、分布の形はよく似ている。
決定的に違うのは、何に払っているかだ。ゲームのクジラが払うのは、遊びの時間、収集、他のプレイヤーとの競争に対してである。AIのクジラが払うのは、前章で見たとおり、仕事を速く片付けるツールに対してだ。後者は払った分の見返りが分かりやすく、だからこそ月900米ドルでも払う。
a16z が「空いている」と示したゲーム、動画配信、SNSの領域や、図の外に置かれたAIキャラクターの領域では、見返りは楽しさになる。そこで課金をどう設計するかは、AIの世界ではまだほとんど誰も解いていない。日本のゲーム会社は、キャラクターやIP(作品やキャラクターの権利)を軸に、楽しさで長く課金してもらう設計と運営を、世界でも早くから磨いてきた。消費者向けAIの次の枠を取るのに必要な知見を、日本はすでに持っていることになる。
ただし、日本はこの領域で痛い経験もしている。2012年5月18日、消費者庁は、ソーシャルゲームの「コンプガチャ」が、景品表示法で禁止される「カード合わせ」に当たるという正式な見解を公表した。7月1日には運用基準が改正され、行政処分の対象になった。射幸性(偶然の当たりで客の欲をあおる性質)を突き詰めた課金の設計は、社会問題になり、規制で止められた。
AIのキャラクターにも、同じ目はもう向いている。カリフォルニア州では2025年10月13日に、AIコンパニオンを規制するアメリカ初の州法「SB 243」が成立し、2026年1月1日に施行された。未成年の利用者への安全対策や、AIであることの開示を運営者に求める法律だ。ニューヨーク州でも、同様の法律が2025年11月に施行されている。a16z が今回のランキングから成人向けの製品を外したことも、この領域の扱いの難しさを物語る。レポートによれば、成人向けの製品を含めていれば、ウェブのランキングの2割を超えていたという。
楽しさで課金してもらう設計の知見と、それが行き過ぎたときに何が起きるかの経験。日本の起業家は、その両方を持っている。空いている枠を取りにいくなら、後者こそが他国の起業家にない強みになるはずである。
東京オフィスの看板は「防衛」、でも最初の出資はAIキャラクターだった
では、a16z は日本に何をしに来たのか。10月7日の開設会見の様子は、Impress Watch が詳しく伝えている。日本代表には、日本マイクロソフトや日本ヒューレット・パッカードの社長を務めた吉田仁志氏が就いた。東京オフィスは日本への投資を強めるほか、アメリカの投資先の日本展開と、日本の投資先の海外展開を支援する。重点領域は防衛(ディフェンステック)、ロボティクス、AI、エネルギーで、中でも力を入れるのが防衛だという。日本経済新聞は、投資する領域として防衛やロボットに加え、エンターテインメントも挙がったと伝えている。
共同創業者の Ben Horowitz氏は会見で、200米ドルの安価なドローンから社会を守るのに100万米ドルのミサイルが要るという、割に合わない構図が生まれていると語った。ロボティクスについては、アメリカ企業が強い、ロボットなどを自律的に動かす制御ソフトウェアと、日本が強いロボットの部品のサプライチェーンやハードウェアを組み合わせることに意味があると説明している。国際的なパートナーシップは同盟国である必要がある、とも述べた。
この考え方は、a16z 自身が6月に公開した Horowitz氏の文章「a16zが世界で果たす使命」にはっきり書かれている。東京オフィスは、アメリカと特に関係の深い同盟国を最優先にする姿勢の表れだという。同盟国との技術協力、投資先の海外展開の支援、新たな海外パートナーの獲得、そして海外での投資の継続という4つの方針を掲げ、投資家向けの部署を「グローバル・パートナーシップ」チームに改称した。新しい国に進出するときは、その国の大統領から大口顧客まで、必要な相手とのつながりが欠かせない、とも書いている。そして結びには、起業家だけでなくアメリカとその同盟国を支えるという新たな使命が加わった、とある。
ただ、a16z の日本との関わりには、もう一つの顔がある。a16z の日本関連の投資として名前が挙がるのは、Androidの親Andy Rubin氏率いる Genki Robotics と、AIキャラクターの Shizuku AI だ。@IT によれば、a16z は2026年2月に、日本人起業家がアメリカで設立した Shizuku AI への出資を、日本企業への投資の第1号として発表した。同社が展開するバーチャルYouTuberの「しずく」は、自動で歌ったり対話したりできるAIキャラクターで、日本に研究開発の拠点を置いている。
看板の筆頭は防衛とロボティクスだ。しかし投資領域にはエンターテインメントも入っており、日本関連の最初の一手はAIキャラクターだった。そしてそのAIキャラクターこそ、a16z 自身のランキングが「まだ誰も取っていない」と示した、時間を楽しく使う領域に属している。a16z の東京拠点が何をするかは、防衛の看板だけを見ていると見誤るかもしれない。
日本の起業家に開いている3つの道
ここまでの材料から、日本の起業家が取れる道は大きく3つ考えられる。
1つ目は、空いている枠を、日本の得意な領域から取りにいく道である。ゲーム、キャラクター、アニメや漫画のIP、そしてそれを楽しみ続けてもらう運営の知見。Shizuku AI は、まさにこの道をアメリカ法人の形で歩き始めた例と言える。限界は三つある。日本の国内市場だけでは、利用者数で世界の上位に入る規模にはなりにくい。人気のIPの多くは出版社やゲーム会社が権利を握っており、AIで扱うことへのファンや作り手の反発も強い。そして前項で見たとおり、楽しさで課金してもらう設計は、規制と隣り合わせである。
2つ目は、上位1%の課金者を狙う道だ。a16z のデータが示すとおり、いまの消費者向けAIでお金を払っているのは、仕事や創作に使う個人である。日本の特定の職業や業務に深く入り込んだツールなら、利用者数は少なくても成り立つ。限界は、Canva や Notion、Figma のような既存の大手がAIを取り込んで上位に入ってきていることだ。汎用的なツールほど、大手に飲み込まれやすい。
3つ目は、お金の取り方で勝負する道である。レポートは、消費者向けAIには新しい事業モデル、あるいは古い事業モデルが必要だと書いている。広告と取引手数料のことだ。個人向けエージェントの Instinct は iPhone のメッセージアプリ iMessage の上で動き、旅行などの取引から手数料を得る計画だという。日本では、その受け皿になりうるのは LINE だろう。しかし、受け皿を持つプラットフォームがどこまで外部エージェントに門を開くかは分からない。アメリカでは、Amazon が Meta の Muse の利用を2週間足らずで止めたのは記憶に新しい。
そして、a16z との付き合い方についても考えておきたい。a16z の看板は防衛とロボティクスで、Horowitz氏の文章が掲げる使命はアメリカと同盟国を支えることだ。日本の防衛やロボティクスのスタートアップにとって、a16z は資金の出し手であると同時に、アメリカの投資先の日本展開を支援しに来た相手、つまり競合の後ろ盾にもなりうる。起業家は自分がどちらの顔と向き合っているのか、常に意識しておくべきだろう。
執筆者|エグゼクティブ・エディター池田 将(いけだ・まさる)
1973年大阪生まれ。12歳でIT関連誌への寄稿を始め、20歳の頃からアジア各国やシリコンバレーで新興技術の取材を行う。ベンチャーキャピタルでの技術デューデリジェンス、SI-erやコンサルティングファームの共同創業、ISPインフラや日本初のモバイルウォレット開発などに携わる。
2010年代には、アジアを代表するスタートアップメディアを共同創業し、約15年間運営。現在は、経済産業省のJ-Startup推薦委員、Tokyo Startup GatewayやMASPのメンターを務めるほか、韓国・延世大学で定期的に講義を行う。
2025年からは、「SOCIA」代表、「Growthstock Pulse」を運営するCohhのCCOとして新事業に取り組む。YouTubeやオーディオブック出演、メディア執筆、国内外のカンファレンス登壇など、多方面で活動中。
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